植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

44.カスミソウ

砂漠の王国ロブリーズは魔法と“商会《ユニオン》”と待合喫茶《パブ》で動いている。人々は何かあると待合喫茶へ集い、困り事を認めた“依頼《クエスト》”を掲示板へ貼り付け、ソレを見つけた“ユニオン”は待合喫茶に斡旋料を払って“依頼”を受け、成功の暁に報…

43.ミツバ

■特別管理プロトコル対象はサーモグラフィーやレーダーで探知可能。“防衛線”は対象の現在地を24時間追跡する。対象との接触は自由だが、トラブルに発展した時に備えSNSまたは帝国謹製ホットラインでの報告を推奨する(政府関係者は下記の説明を熟知し、…

42.コモンマロウ

!Alert! LGBTQで性別の垣根が曖昧になっていくのなら、そのうち友達と恋人の垣根も曖昧になるだろう。 砂漠の王国には、数多の星々が埋もれている。一等星の如き煌めきを放つ物から、ブラックホールの如き暗黒まで。四百年よりも前から存在する叡智は、何…

41.センテッドゼラニウム

「やあ。」後ろから声がする。穏やかで、甘くて優しいテノール。地声で喋る“貴族”は中々居ない。(あいつか。)ゼニスは振り向いたが、やはり誰も居ない。ただ、明るい黄緑色の光の粒が、キラキラと零れて消えていくのが見える。「悩み事かい。」(なんだ?…

40.ブラジルナッツ

少女剣士は独り旅をしていた。星形のかわいい板に乗って空をサーフィンするので、徒歩よりは速くてもやはり時間はかかった。「ししょー…」 だが、沙漠以外の国中を放浪して分かった事は、友達という友達は自身も一時期世話になった街長に囚われ、探し人はこ…

39.スベリヒユ

「あー…まずい事になった…」 温室の中で、頭を抱えているオッサンが居た。手入れの痕跡が見当たらない髪を無造作にまとめ、薄汚い縁なし眼鏡と汚れた白衣を着ている。「草むしりに来たんだから別にいいだろ…」 アナスタシア区の植物博士、ガストンだ。腰のポ…

38.ホオズキ

王国の夕暮れは何処か曖昧だ。道すがら歩む人も、店頭から聞こえてくる客引きの声も。「もうし。」 国境を定める石灰峠/ダンベルロット山から首都――王宮ベルベットに向かう程、南に行けば行く程、彼の岸と此の岸の境目があやふやになっていく。「もうし、彼…

37.サクランボ

隣の国がピンク色のサクラに震え上がる頃、王国は花びらを散らした白いサクラの木の下に網が張られていた。目の細かいそれは合成繊維でできているかと思いきやとんでもない、シルクだ。「シルクって高級品じゃなかったっけ・・・」「此処からちょっと離れた…

36.ヤマノイモ

温室の中一面に咲く花畑と白衣の人を見て、急に昔を思い出した。「誰か居るのかね。」「…せん、せ、い?」 遠い昔、まだ7つだった私は研究助手の真似事を勝手にしていた。可愛がって下さった“せんせい”は根っからの研究者だった。昼も夜も研究対象の事を考…

35.アジサイ(赤)

「こんにちは。」 一般部としての任務を終えたアナスタシアのマナは、帝国唯一のリアル花屋“アーシング・ビューティー”へと足を運んだ。今日も友達が、売り子さんをしている事だろう。「あらいらっしゃい。」 だが出迎えてくれたのは友達の母親のエミナだっ…

34.イランイラン

!Alert! \(^▽^)⊿「あーまいこいのロマーンス!!」 朝目覚めたら、噎せ返る様な花の香りに包まれていた。例えるならマンゴーの様で、朝から頂くには少し重い。寝ぼけ眼で見てみれば、黄色い花が点々と続いている。見える範囲だけで十は超えるだろうか。「…

33.ラベンダー

かつてほぼツンドラの、苔しか生えない大地に温室を立てようとする帝国民が居た様に、砂漠に畑を作ろうとする王国民が居た。プレイグラ大沙漠と呼ばれる大きな大きな沙漠のど真ん中には、小さな町がある。それが“始まりの街ランズ”だ。 王国ロブリーズは魔法…

32.ライラック

アナスタシア区は花の街だったという。極寒たる帝国メガロポリスの春夏は短く、ガラス温室をも潰す豪雪地帯すら存在していたが、それでも露地の植物達は子孫繁栄のチャンスを逃さなかった。季節が廻れば花を咲かせ、茎を伸ばし、葉を広げ、根を下ろし、この…

31.キショウブ

「困りました…今日…検査…なのに…」 首都倉庫の備品を確認していると、有り得ない人物を見かけた。セミロングまで伸ばした黒髪の若い男性で、ベストスーツの上に白衣、そして安全メガネまで掛けている。「小さい女の子を見かけませんでしたか。」「いや、全く…

番外3.アカツメクサ

衝撃のネクストバレンタインデーから2ヶ月が過ぎようとしていた。手乗りロボットは人工知能群の最先端ファスタラヴィア区だけでなく、帝国全土でぼちぼち流行っている様だ。おチビさんは話しかければ、わざわざ挨拶しに来たり、流行の音楽をかけたり(追加…

30.ドイツスズラン

この三千世界の魔法は、少しずつ喪われてきていた。百年以上前に作られた物を見ると、それがよく分かる。雷を吸収し、熱風として徐々に拡散させる羅盤。月から世界を守護するとされる神の声を聴く耳飾り。黒雲を晴らし、青空を呼び込むための天球儀。相反す…

29.レンゲソウ

【機密事項】へ赴任して2ヶ月が過ぎた。電力が使えなくなった街には、電気に代わるエネルギーが必要だ。今は備蓄燃料で保っているが、それは“黒い海”――海が生きて俺達を食らうという話――に乗っ取られた世界では天然記念物だ。環境にも悪いと言うし、今後も…

28.タンポポ(綿毛)

「たいさ!たいさ!」子どもが歩いている。てちとちてちと、元氣よく。「あのね、ミサキね、おはなみつけたよ!」「そうでありますか。」それを見守る大人は飛行機帽に迷彩服。一昔前の軍人姿はちょっと人目を引いてしまっているが、本人は全く気にしている…

27.ネモフィラ

「知ってるかい。この砂塵の世が、花だらけだった日の事。」昔、まだ●●●の居た世界が静かだった頃、世界は青い花で埋まっていた。白の地色に空色を差して、細やかな葉の作りを隠すように咲き乱れる。その花の名をさて何と言ったか。「美しいだけで民の心を踊…

26.オオシマザクラ

※写真お借りしました:https://www.photo-ac.com/profile/1947778 今年も桜が満開に近づいてきた。どれも日に日に咲いて、全ての花が咲くまで土に還ろうとしない。丁度いま、記憶の中で話している故人の様に。「…。」風の音すらしなかった世界にさあぁっと広…

25.タンポポ

※写真お借りしました: https://www.photo-ac.com/profile/484309 25.タンポポ黒い太陽と白い満月の墜ちる世界が、黄色に染まる夢を見た事がある。 その日の…空がいつもよりも白くて明るかった日の…男は、区画内の店をふらりと眺めていた。(今日も空は綺…

24.フキノトウ

※写真お借りしました:https://www.photo-ac.com/profile/1653509 極寒期がほんの少し和らいで、青空と太陽がハッキリ見える様になった頃。雪、あるいは土から黄緑色の塊が顔を出しているのを、見た事がないだろうか。「あー!!みっけ!」毛羽だった薄っぺ…

23.シロツメクサ

※写真お借りしました:https://www.photo-ac.com/profile/1749180 今日は待ちに待ったバレンタインデー! 街中の店共は高級感を装い、オンラインショップに負けじとチョコレート祭を繰り広げていた。帝国民はバレンタインデーの週になると何かしら袋を携帯す…

22.ヒガンバナ

※写真お借りしました:https://www.photo-ac.com/profile/1042516 「・・・。」息を殺して裏路地を歩く。誰にも見つからない様に。誰にも声かけられない様に。「あたし、どうして生きているんだろう。」帝国に生まれた者は王国に生まれた者よりも幸せだ。そ…

21.カリン

※写真お借りしました https://www.photo-ac.com/profile/228981 寒さが身に滲む紅葉の頃、都市近郊の庭で異様に大きな実が目立ってくる。柑橘と同じ黄色だが手触りはさらさらで、そして何よりも硬い。頭上から落ちてきた日には死者が出るかもしれない…アナス…

20.クチナシ

※完全版はこちら 短編集「錦上添花」其の一. ※写真お借りしました https://www.photo-ac.com/profile/538978 主(しゅ)は確かに、誰かのピアノの合間に仰った。「梔子(くちなし)は好きだスか?」「はい!」梔子はアカネ科の強健な低木。“小城”の庭を白の…

19.キンモクセイ

※完全版はこちら→短編集「錦上添花」其の一.※写真お借りしました;https://www.photo-ac.com/profile/1042516 最近、人類が騒がしい。集音センサーに8割増でハウリングが混じり、先週より63%増で論理回路の回転に支障が出ている。ひとまずセンサーの感…

18.カキノキ

※完全版はこちら→短編集「錦上添花」其の一.※写真お借りしました;https://www.photo-ac.com/profile/2132527 俺の家の傍には、カキの木があった。父と取りに行っては畦一面に干してたっけ。「完全に渋柿よな…」「こうすれば渋が抜けて食べられるって、 父…

17.クズ(葛)

※完全版はこちら→短編集「錦上添花」其の一.※写真お借りしました;https://www.photo-ac.com/profile/641814 夏秋の頃、人が行き交う其の横で、緑色の蔓が伸びる。茶色い毛を生やした逞しい蔓だ。蔓は掌大の葉と赤紫色の花の塔を付けて、川を、道路を、人の…

16.コリアンダー

※完全版はこちら→短編集「錦上添花」其の一.※写真お借りしました;https://www.photo-ac.com/profile/2418238 遂に故郷へ辿り着いた。尤も、まだ後で行くつもりだったし、まさか誘拐だなんて想像すらしなかった方法で偶々着いたけど…「しかし此処が、お前さ…