植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

30.ドイツスズラン

 この三千世界の魔法は、少しずつ喪われてきていた。百年以上前に作られた物を見ると、それがよく分かる。雷を吸収し、熱風として徐々に拡散させる羅盤。月から世界を守護するとされる神の声を聴く耳飾り。黒雲を晴らし、青空を呼び込むための天球儀。相反するチカラと膨大な情報をため込む石…今ではもう誰も作る事が出来ない古の物達だ。
 これらを作ってきた技術の1つに、錬金術があった。全きの毒を薬に、卑金属を金に、米を熟成すればする程美味しくなる酵素に変える偉大な技術。今やかつて挑戦者だった教師と数種類の書籍が残るだけで、原型を遺していく事すら出来ていない。
「てゆーか先生も出来ないんだ?」
「何をどうしても上手く行かない部分が出てきてね…
 だから挑戦は一旦止めて、人に基礎を教える事にしたのさ。
 知識は実際使って初めて智恵に昇華されるからな。
 それでは、授業を始めるぞ。
 なんたって今日は、スズランから薬を作る授業だからな。」
 そんな薄れ行く技術の継承に挑む7人の若者を相手に授業が始まった。
今日は一層特別な授業の様で、各員のテーブルには鉢植えが置いてあった。
伸びた細い花茎から鈴の様な白い花がころころと、株の下側を包む様に生えた葉から伸びやかに顔を出している。
すずらん…」
「冷涼な高地に生える毒草で、“料理長”が育てていた植物の1種ですわ。
 小さな白い花を咲かせる植物が食卓に飾ってあったではありませんか」
「あれか…き、訊くんじゃなかった…」
「そう言えば、中央に一列飾ってありましたね…一縷の狂いもなく。」
ギュンター、エミリー、タントは、昔居た世界の事を思い出した。
「スズランをあしらったディナーねえ…」
「なにソレめっちゃオシャレじゃない?」
「王国(こっち)じゃ5/1に男性から送る花だけど、帝国(そっち)は?」
「特にないよ。寧ろ大繁殖して、定期的に駆除してるみたいだし。」
「うわもったいな!」
同級生の中でも先輩なゼレイア・クリスタ・カゼーテルは、実に優美でゴージャスな食卓を想像した。
「毒草を薬に、ですか…?」
「そうだ。」
どれもこれも、生まれも育ちも隣国だったレコアには信じがたい内容だ。
レコアが宙に疑問符(リアルギモーヴ)を浮かべ始めたのを見て、クリスチーナ先生は改めて説明した。
「漢方や薬草学といった学術には、
 加熱などの処理をしてから毒草を薬として用いる事があった。
 だが錬金術では、本当に毒を薬に変える。
 使うのはスズランの根、小窯(コルドロン)、ランプ、金属の撹拌、
 予め蓋に重石を乗せた状態で煮詰めた水だ…」
クリスチーナ先生は予め用意していた材料と道具を、自分の短杖(ワンド)で操り始めた。
帝国メガロポリスが魔法の国なら、王国ロブリーズは魔法の国だ。
帝国が電気を用いて電化製品を操るなら、王国は魔力を用いて魔法を操る。
帝国民が炊飯器でご飯を炊く様に、魔法で材料を煮詰め、中を棒でかき混ぜる。そうして出来上がる熱水はとても香り高く、まるで香水だ。
「よし出来た。
 これで、心臓と排泄力を強くする薬“ミュゲリア”が出来た。
 ごく少量飲むか、化粧水の様に散布して使う。では、やってみようか。」
『はい!』
(でもコレ、どうやって成功を判定するのでしょうか…?)
意気揚々と錬金術に挑戦する同級生の横で、“失敗したらスズラン毒で死亡フラグ乱立”が気になって仕方ないレコアであった。
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綺麗な薔薇に棘の有る様に、可愛い物には毒が有る?
何かを無毒化する方法は、加熱する事から始まり様々に試されてきました。スズランの毒性をも無害化し、安心して花瓶に飾る事の出来る日も直ぐそこまで来ていそうです(ちなみにスズラン毒は250℃まで耐えます)。
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参考ホームページ
・アトリエオンライン
・薬用植物一覧表
・スズランの日
・塩酸を無害化できるらしい話
wikipedia「スズラン」「コンパラトキシン」
※スズランの香り成分情報がネット上には無い…だと…?
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CAST
・エミリー=メイデンヘア
・ギュンター=メイデンヘア
・クリスタ=アナスタシア
・クリスチーナ=メドースイート
・ゼレイア=ノワゼット
・タント=メイデンヘア
・レコア=メイデンヘア