２９．レンゲソウ
【機密事項】へ赴任して２ヶ月が過ぎた。
電力が使えなくなった街には、電気に代わるエネルギーが必要だ。今は備蓄燃料で保っているが、それは“黒い海”――海が生きて俺達を食らうという話――に乗っ取られた世界では天然記念物だ。環境にも悪いと言うし、今後も使いたくはない。
「太陽光は極寒期がダメ、地熱は…この辺って火山あったか？
風力は…小水力発電…あー頭いてー…」
潜入先での勤務を終えると、彼は隣町のアパートに帰る。
この辺りは極寒期には雪で埋まる世界。地上がダメなら電熱線を敷いて、地下道で通勤しようだなんて誰が考えただろう。御陰で彼も隣町まで歩いて行けるので、先人の知恵に感謝だ。
「ミツバチちゃん、元気かな…」
１ＬＤＫはひとまずの潜伏先だ。
潜伏先だが、こんな寒い所で珍しい生き物を見つけた。
蜜蜂だ。
巣を作り、花から花へと飛び回り、蜜と花粉を交換する昆虫だが、此処は極寒たる帝国メガロポリス。そんな生き物は短い春の芽生え時にしか居ない。
（うおぉ昆虫だ。早起きしすぎたか？）
露地には街路樹しか無い国の珍しい生き物に、青年は胸を射貫かれた。そして、国のセーフティネットを担う組織に就職して３年になる彼は、すっかり奉仕の心が板に付いていた。
「よーしよし、ちょっと我慢してろよ。」
造花の中にくるまっていた蜜蜂にそっと指に差し出すと、よじよじよじと、緩慢ながら登ってくる。
どうにも眠そうな蜜蜂をスッカラカンになったサケカップの中に下ろしたら、うとうとと眠ってしまった。ほんの少し残った清酒で、優しい夢を見ているのだろうか。
「シロツメクサエアコン２５℃でー」
《暖房 ２５℃に 運転を 設定しましたー》
だが、現実は残酷だ。
休日以外は帰って寝るだけの小さなアパートに、養蜂のスペースなどない。
「…ハチって何食うんだ…あ、温室とか要んのか？」
青年はコートも脱がずに帝国謹製汎用通信機（オホン）の検索を続けた。
それをメモ帳――SFと言うには足りない機械大国だが、思考のまとめに紙のメモ帳がこんなに便利だとは思わなかった――書き出し、注文を掛ける。
果たして彼は、一体何を作るのか…
├バーミキュライト
├鉢底石
├蜜源植物（レンゲ
│
水槽×プランター×テラリウム＝ミニ温室？
│ │
├ヒートパイプ ├コケ、水草
├水中ポンプ ├溶岩石
├フィルター ├砂
├植物用ライト
接着剤、チューブ、パイプ、グルーガン、エアポンプ？
朝、水辺の音で目が覚める。
最初に目にする変化は、パチンと灯る明かり。
水槽の中は石で三段に分かれていた。
最上段に滝の頂点、中段に鶏卵の容器で試験作成したプランター、最下段に小さな水辺。
仮設プランターに播種されたレンゲはただいま開花中。とてもふかふかで、諸所に植えられたコケもフサフサと生えている。
過湿・結露を防ぐためか蓋は少々開いていて、網戸の替えが挟まれている。
「うっし、上々だ。」
雲の様なモヤモヤが所々浮く青い背景以外には、とても殺風景だ。
「んじゃ行ってくるなー。」
青年は長い髪を三つ編みにし、ロシアン帽とコートを着て出かけた。
蜜蜂は自然と、青年の後ろ姿を見送る形となり…
羽根を震わせて水辺へダイブ。
「ぷはっ。」
暫くして蜜蜂…ではなく、人間の小指ほどの大きさの美青年が出てきた。
焦茶色のセミロングと黒い瞳が麗しい青年は煌々と光る天井を見て、一言。
「…………此処は箱庭よりも温かいな…………」
温まったら蓮華蜜を頂こう。
それまでもう少し、記憶に存在しない異世界の外景を楽しんだ。
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可愛いよねミツバチ…カッコイイよねスズメバチ…刺された事あるし はちさんこわいけど…ぶぶぶぶーん。
レンゲ畑、昨今は二期作・二毛作をしないのと、外来生物により殆ど居なくなりました。これも貴重な蜜源作物・緑肥（マメ科）です。種を見つけたら畑にまいて楽しむ事にします。
※放置しても露地ですいすい育つ様な植物をアクアリウム下で育てると、高温＆多湿徒長をする可能性の方が高いと推測します。
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参考ホームページ
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/manabi36/mm36-6.html
http://karapaia.com/archives/52234753.html
https://news.mynavi.jp/article/20180615-647528/
さぼりｃｈ https://www.youtube.com/@saborin777
※ミツバチについて
一般社団法人日本養蜂協会http://www.beekeeping.or.jp/honeybee/biology
一般社団法人ハニーファームhttp://honeyfarm.jp/
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CAST
・アナスタシアのワタル
・？
