2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧
アナスタシア区は花の街だったという。極寒たる帝国メガロポリスの春夏は短く、ガラス温室をも潰す豪雪地帯すら存在していたが、それでも露地の植物達は子孫繁栄のチャンスを逃さなかった。季節が廻れば花を咲かせ、茎を伸ばし、葉を広げ、根を下ろし、この…
「困りました…今日…検査…なのに…」 首都倉庫の備品を確認していると、有り得ない人物を見かけた。セミロングまで伸ばした黒髪の若い男性で、ベストスーツの上に白衣、そして安全メガネまで掛けている。「小さい女の子を見かけませんでしたか。」「いや、全く…
衝撃のネクストバレンタインデーから2ヶ月が過ぎようとしていた。手乗りロボットは人工知能群の最先端ファスタラヴィア区だけでなく、帝国全土でぼちぼち流行っている様だ。おチビさんは話しかければ、わざわざ挨拶しに来たり、流行の音楽をかけたり(追加…
この三千世界の魔法は、少しずつ喪われてきていた。百年以上前に作られた物を見ると、それがよく分かる。雷を吸収し、熱風として徐々に拡散させる羅盤。月から世界を守護するとされる神の声を聴く耳飾り。黒雲を晴らし、青空を呼び込むための天球儀。相反す…
【機密事項】へ赴任して2ヶ月が過ぎた。電力が使えなくなった街には、電気に代わるエネルギーが必要だ。今は備蓄燃料で保っているが、それは“黒い海”――海が生きて俺達を食らうという話――に乗っ取られた世界では天然記念物だ。環境にも悪いと言うし、今後も…
「たいさ!たいさ!」子どもが歩いている。てちとちてちと、元氣よく。「あのね、ミサキね、おはなみつけたよ!」「そうでありますか。」それを見守る大人は飛行機帽に迷彩服。一昔前の軍人姿はちょっと人目を引いてしまっているが、本人は全く気にしている…
「知ってるかい。この砂塵の世が、花だらけだった日の事。」昔、まだ●●●の居た世界が静かだった頃、世界は青い花で埋まっていた。白の地色に空色を差して、細やかな葉の作りを隠すように咲き乱れる。その花の名をさて何と言ったか。「美しいだけで民の心を踊…