植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

番外3.アカツメクサ

 

衝撃のネクストバレンタインデーから2ヶ月が過ぎようとしていた。
手乗りロボットは人工知能群の最先端ファスタラヴィア区だけでなく、帝国全土でぼちぼち流行っている様だ。
おチビさんは話しかければ、わざわざ挨拶しに来たり、流行の音楽をかけたり(追加料金の掛かる可能性があります)、しりとりに付き合ったりしてくれる。投げると丸まって転がる様は完全にボールだ(本体やぶつけた物が破損する可能性があります)。
白い低反発素材の外装と、チカチカ光る青いおめめは帝国民にウケた様だ。今は飛ぶように売れて、ファスタラヴィア区の主たる活動資金となっていた。
「それで、進捗はどうなんだ?」
ところで視聴者の皆様は、覚えているだろうか。
「キースが凹んでるって事は…出来てないって事なんじゃ…?」
例の宣伝動画では、その“シロツメクサ”には相方が居て、バレンタインデーの1ヶ月後に販売される予定だった事を。
「だから前日にわざわざ招集かけてきたのか…」
ファスタラヴィアのダニエラ区長と(同)PRチャンネル部隊の3人は、帝国最強(たぶん)の人工知能群から連絡があった。
報告だけならメールやビデオ通話で済むだろうに、発売日前日に会議室集合をお願い(・・・)してきたのだ。一同は机に突っ伏した――この一連の流れ、日頃から見てマジでありえない――自律人形(アンドロイド)を見て、キング・オブ・想定外を予想せざるを得なかった。
「キース、どうしたの?」
(同)ミハルが、突っ伏したまま一向に動かない自律人形の旋毛――頭髪は最近ナノワイヤーなる物になったらしい――を指でこしょこしょしながら訊いた。
「推定午前5時01分から工場のシャッターが
 開閉しなくなった。センサーは正常だが、
 電力系統かシャッターが故障している。」
『えぇーっ?!』
PRチャンネル隊がずっこけた。確かにソレは想定外だ。
「それってつまり、今日中にシャッターを
 直さないと“アカツメクサ”が販売できない
 って事じゃん!」
「そうだ。」
自律人形としてのキースは、確かに“物理攻撃ほぼ無敵”だが、中身は繊細に出来ている。その繊細さと言えば、開発中含むセンサーを体の半分くらい積んでいて、怪力自慢の拳で誤作動を起こす程だ。だから、戦闘や力仕事においては自ら開発した機械兵達を繰り出し、想定外が無い限り後方に控えるスタイルを採っている。
その機械兵達の素材は、キースの持つ唯一の資産である。
人工知能群としてのプログラムや諸々の機材は、キース本人しか知らない。帝国政府特許庁に申請は出されていない――まず人工知能群に人権とか、そういう権利が認められるかどうかを議論しなければならない――が、真似されるのも、盗まれるのもたまらない。
そういう訳で機械兵の生産ラインは、災害・叛逆時の区民の避難シェルターになる程度にセキュリティや耐久性が頑強であった。今、人工知能群が困る程度には。
「機械兵でこじ開けられないのか?
 最悪、シャッターを壊してでも。」
「…実行歴は無いが、
 80%の確率でゴンザレスなら可能。」
「よし、現場に行くか。」
ダニエラ区長の一声で、一同は問題の現場へと向かった。
現場…工場の入口では、機械兵達がシャッターをこじ開けようと奮闘している。
『よーいーしょーっ、よーいーしょーっ、…』
シロツメクサ”と違って金属剥き出しの無骨な彼等だが、一番小さい機械兵がトコトコと一同の元へ歩いてきて、残念な効果音と共に、項垂れた。
「これはブルドーザーか何か持ってこないと
 駄目だな…」
「何でも最初から壊そうとするな。」
悄気る機械兵をモリスンがおーよしよしと宥める間に、ダニエラ区長はシャッターを手の甲で軽く叩いてみた。自慢の拳でぶち破るつもりだった様だが、同様の件で直した小売店の様には行かない事だけは分かった。
「だがコレはガチ詰んでるだろう?
 ゴンザレスでぶち破れ。
 ソレで駄目なら対空砲でぶっ飛ばす。」
「…了解。推奨;現場からの退避。」
一同は入口前に居た機械兵達と共に撤退し、キースはその場でシャッターを…正確にはシャッターの奥を…赤外線で見つめる。
細いヘアバンド状の薄板がシャッと一気に展開された。蛍光色の走る黒いハットの様になったルーターの発信強度を上げ、ゆっくり現場の裏手へ回り込みながらキースは工場内に置いている機械兵“ゴンザレス”を遠隔起動した。
《警告;シャッター破砕による損傷。》
その内、轟音が数回聞こえて、シャッターが中央から真っ二つに割れた。遂に開いた出口から、子どもに愛される恐竜…を模した機械兵が顔を出し、辺りを伺った。コレが機械兵最大にして唯一の恐竜型、ゴンザレスだ。
《すごい音だな…状況は?》
「シャッターの破砕に成功、ゴンザレスは頭部を微損傷…問題なし。」
《よし!キースはシャッターの破片を除去し、
 道を空けろ。》
「了解。」
《クリメント達は“アカツメクサ”の梱包作業
 に入れ。ついでにサボりを見つけたら連行
 しろ。》
《《《了解!!》》》
さて、PR隊含むファスタラヴィア区役所のみんなは無事工場に突撃。
アカツメクサの梱包作業に入った。
「ダニエラ区長。」
キースはゴンザレスの背に乗り、ティラノサウルスらしい大きなお口で瓦礫撤去作業をさせながら通信を入れた。
《どうした?何か問題が?》
「問題は無いが…感謝する。」
こうして“アカツメクサ”は無事ホワイトデーに間に合い、各自購入した“シロツメクサ”と「再会の抱っこサービス」を見せたという。
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店のシャッターが壊れて開かないってヤバいですね…実際そういう現場に遭遇したので、ネタとして織り込みました。肝心のアカツメクサを練り込めなかったから番外行きになったけど!
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CAST
●ファスタラヴィアのダニエラ
●ファスタラヴィアのミハル
●ファスタラヴィアのモリスン
●ファスタラヴィアのクリメント
人工知能群第一世代“キース”
●機械兵団の皆様