植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

43.ミツバ


■特別管理プロトコル
対象はサーモグラフィーやレーダーで探知可能。“防衛線”は対象の現在地を24時間追跡する。対象との接触は自由だが、トラブルに発展した時に備えSNSまたは帝国謹製ホットラインでの報告を推奨する(政府関係者は下記の説明を熟知し、対応をスムーズに行える様にする)。対象の報道への映り込みを禁ずる(確認した場合、該当メディアおよび帝国政府通信部情報課に消去させる)。

■説明(カテゴリクラス;アモルファス
NIiM-21とは、生物(推測)である。NIiM-21の外観は人型と蛇型の2種類に固定される。人型の場合は現帝国南西部で発掘された王国歴200年頃の男性の姿(錣《しころ》のある黒い角隠し。黒の五つ紋付き羽織袴(家紋はクワモス区立図書館の禁書「家紋・魔法陣・宗教紋一覧」に不掲載)。夜行性の蛇と同じ瞳孔を持つ黄色い瞳。)、蛇型の場合はエラブウミヘビ(一般的な成体と違い、幼体の様に体色のコントラストがハッキリしているか真っ黒である)に近似の姿で現れる。人語を話し、“気難しい方々”の中では人間に好意的な方で、特に“孫”と呼ぶ人物を大切にしている。しかし①歯に触れるとヘビ毒で混乱~欠損~死亡②魔氣による魔石アレルギーおよびアナフィラキシーショック③雨の操作による事故④NIiM-21自身が魔氣暴走を起こし人類に敵対するおそれがある。彼が棲まうとされるヒルテュラ湖は、帝国民の水死先ワースト1位を記録する原因不明の危険地帯である。帝国政府は彼がヒルテュラ湖における事故増加の一因であると仮定し調査を続けている。
「なんだこの前置きは・・・」
「最近、面白い報告書を見まして。」
「よその世界の情報か消してこいブレインシェーカーにかけるぞ」
「7つのヴェールを超えた話は止めろマジでヤバいから!!」
この様に、極寒たる帝国メガロポリスとは神を奉るどころか信じる者さえ少ない国であったが、怪異は科学の端または夏の風物詩としてなんとなく受け容れられていた。メディアミックスの中だけで済んで欲しい物事が起きても薬とAEMを手に立ち向かい、あるいは意思疎通を図る者さえ居た。
「ナーッシュ・インペリア・メガロポリース!!」
『ナーッシュ・インペリア・メガロポリース!!』
「ナーッシュ・インペリア・メガロポリース!!」
『ナーッシュ・インペリア・メガロポリース!!』
問題は――これでも人外魔境暫定一位の人格者なので誠に憚られるが業務の邪魔になるという意味で――この“クソ蛇”は帝国首都サクリーナ城含めた各地にも一時的に出現するという事だ。
「ナーッシュ・インペリアっ・メガロポリっひでぶー?!」
『?!』
今回は帝国参謀ソリトン=フローレンが行う帝国政府一般部の朝礼にて、彼の頭上に出現した。サクリーナ城南の庭で行う軍事演習前の挨拶で、帝国参謀は頭上衝突された衝撃で尻餅を突いた挙句すっかり絡まってしまったし、一般部一~二軍は正体不明の落下物に対し一斉に武器を構えた。
「コラァ!!イケメンの触手プレイなんて誰が喜ぶんだ!?オレ様にそんな趣味は」
「やかましい。」
「いてっ!!」
黒蛇は鉄扇を振り回す帝国参謀をその尾でピシャリとしばき、大人しくなったその羽織の隙間からするすると抜けてその前にとぐろを巻いた。
「相済まぬ。これでよいか?」
「…話には聞いてたけどな…こ、こんなイケボな蛇があってたまるかー!!」
彼は帝国参謀に向けてぴょこりと首を傾げているが、こんな蛇はまず居ない。若者には今のところ敵意の無い魔物《ヘンナノー》と言った方が理解されるかもしれない存在だ。帝国参謀は扱いに困る侵入者をビシッと指差し、容赦なく尋ねた。
「当方は帝国政府一般部最高責任者、帝国参謀ソリトン=フローレンである!
名前を言って、それから御同行願いたい。
貴君には、戦略的重要施設への不法侵入の容疑がかかっている。」
帝国政府(略)の手本の様な名乗りと連行宣言に、黒蛇はふあぁと欠伸でもするかの様に伸びて、口を開けた。その中にある真っ黒い舌は、当然の様に二股で黒い。
「長いのう。」
「長い言うな!!」
「まぁよい、孫を知らぬか?孫が居れば早急に去ぬる故。」
「まご?」
「おおよそ城内に居る、黒髪の細い男の子よ。双方示し合わせた上で訪ねるが、今日に限って居らぬ。何ぞ急用があって不在にしておると思うが、吾は存ぜぬ…しかし暑いのう。」
黒蛇は何処からともなく赤い番傘を出し、勝手にその影で涼み始めた。
本日は極寒たる帝国メガロポリスにおいて大変貴重な真夏で、雲1つない青空だった。確かに変温動物にはキツイかもしれない。だが帝国参謀の機嫌は容赦なく下がった。
「“窓際”絡みかよ【罵詈雑言につき編集済】」
「これ、孫の悪口はそこまでにせよ。」
「やかましい!!これから全体演習すっから、待ちぼうけは端っこでやれ!」
「あい分かった。」
以上の出来事により帝国参謀はカンカンであったが、黒蛇は番傘ごと中庭の端へのんびり移動し、傘と城の織り成す影で涼んでいた。
ちなみに、その演習は滝の様な大雨の中で敢行されたという。

■捕捉1【各部司令官以上クラスのみアクセス可】
インシデントNIiM-21 帝国暦150年■月■日
(中略)
「さっきまで晴れてたのに。」
「こんのクソジジイ・・・」
「ふん。確かに我は道を外れた存在《もの》だが、神に対する態度が
ソレでは行かぬであろう。詫びと孫の話ならば受ける。」
帝国参謀に詰られた黒蛇は、地面に直立させた番傘の下でソッポを向いた。
だが帝国参謀には全く謝る気がなかったので、彼の“孫”について思い当たることを話した。
「情報課のブリーフィングルームとかでねぇの?今朝、管制官と喋ってたけどな。」
「なかったのう。」
「マジか…」
その時、風がふーっと吹いた。
物が飛ぶ程でもない、ただのそよ風だった。
「は?」
その中に青い蝙蝠傘がふわふわと、囁き声を零しながら飛んでいなければ。
「その“おじいさま”の好物が、ミツバのお吸い物なのですよ。」
「ミツバ…うちでは困るぐらいに生えるが、其方ではどうだろうか。」
「それが、今年の冬将軍に駆逐されまして。」
「ミツバが、枯れる?」
「ええ、此方にも生えてて良かったですよ…」
いや、たとえ風が強くて飛ばされたとしてもその飛び方はないわ…とは帝国参謀の弁であるが、やがて蝙蝠傘は2m程の高さで留まり、その下から男性2人が姿を現した。赤と銀の魔法使いと傘の下で仲睦まじく話すファッショナブル・エージェントに、いよいよ帝国参謀はキレた。
「おい“窓際”!!客来てんぞナントカしろ仕事サボってんじゃねーぞこのヤロー!!」
「サボっては居ませんよ?今対応します。」
「おや、邪魔したかな?」
「…お主ら相変わらず仲いいのう。」
「おじいさま、ミツバ採ってきましたよ!」

■捕捉2【各部司令官以上クラスのみアクセス可】
NIiM-21は水属性の守護者(王国風に言うと神)と目されているが、王国聖書にはミーティア以外にそれらしい記述はなかった。今後“孫”にインタビューさせ、詳しい素性等を記録する予定である。
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ミツバは貴重な、日本原産の植物です(ポケモンならぬ日本原産の植物いえるかな?を並べてみたくなります)。生で菜飯にしてもよし、お吸い物にしてもよし、更には湿気のある日陰めいた場所で育つので我が家では重宝しております。
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参考ホームページ
・SCP財団
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CAST
・帝国政府一般部参謀ソリトン=フローレン
・帝国政府通信部シダー長官
・帝国政府通信部スツェルニーのクライン
・アナスタシアのマナ
・嵐と濁流の神■■■■■
・夜空の■■■■■■