植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

24.フキノトウ

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※写真お借りしました:https://www.photo-ac.com/profile/1653509

 

極寒期がほんの少し和らいで、青空と太陽がハッキリ見える様になった頃。
雪、あるいは土から黄緑色の塊が顔を出しているのを、見た事がないだろうか。
「あー!!みっけ!」
毛羽だった薄っぺらい半円状の葉の合間から出ていたら、それがフキノトウ

春の使いだ!
「ふにー…♪」
トモダチのフローラに聞いて以来、

この花の開く所がずっと見たかったのだ。
花を覆う“がく(?)”に模様があって、中には丸みを帯びたつぶつぶが…
フキノトウは沢山生える。

全て咲いた光景はきっと綺麗だろう。
今年こそフキノトウ畑をお絵かきして、フローラに見せるのだ。
「おや、もうそんな季節でしたか。」
「でかしたわクライン!!庭全部回った甲斐が有ったわ!」
ところがうっかり眼を離すと、大酒飲みのウワバミ共が、フキノトウを天ぷらにしてしまうのだ。これはいけない。
「ユリちゃん、フキノトウ採って良いかい?」
「だめー!!」
と言う訳で本日のミッションは、両親含む全ての大人達からフキノトウを死守する事である。
「…それで、どうするの?」
「しょーぶ!!」
ヴァルトリピカのユリ、たぶん8歳。
三戦三敗の雪辱を果たすべく、今年も愛用のピコピコハンマーを持ち出した。
「良い宣戦布告ね!かかって来なさい!」
「いいですよ。どうぞ其方から。」
「うっし、ユリちゃん勝負だ!」
本日相対する大人は3人。

中距離攻撃必中――というウワサ――のお父さん、近接から遠距離まで大体オールマイティなお母さん、そしてパワータイプのムシキおじさんだ。
「おじさん…」
「“おじさん”ねぇ…」
「いや確かにこの中で一番年上だけども…コラ!!そこ笑うなし!!」
小さなユリちゃんに遠距離技は一切ないので、如何に早くお父さんをKO出来るかが勝利の鍵だ。
尚、帝国民とは基本的に銃を持つ者であり、最長射程攻撃の持ち主はお母さんだが、小さい子相手には使用厳禁なので今回は除外してよい。
「とおぉ!」
「うおっ?!」
小さなユリちゃんの一撃を最初に受けたのは、残念、ムシキおじさんだった。お父さんが涼しい顔で、横に居たおじさんをピッとひっぱったからだ。
「なんつーことすんだこのお父さま?!」
「いえ、私、ハンマーを食らった日には骨折余裕ですから…」
とは言えムシキおじさん、後輩の盾にされるハプニングは有ったが、元より腕力には自信がある。こどもハンマーの一撃など、屁のカッパだ。
「うぬぬぬぬぬぬ…」
「ほら、背中がお留守ですよ。」
小さなユリちゃんがちっとも動かないハンマーに悪戦苦闘している隙に、お父さんが動いた。
何気なく歩いている様に見えるが、その間誰にも一切気取られず、枯葉や砂埃の残る石畳を無音で歩み…そして発砲するのだ。
ぽかぽかぽかぽかぽか
「わ、わ、わわわっ!!」
特殊セミオートハンドガン(のんびり仕様)から放たれた“ぬいぐるみ”が、小さなユリちゃんに積み上げられていく!
「ふにー…」
小さなユリちゃんは、ふわふわのぬいぐるみ山に埋もれてしまった。
「もうおしまいですか…“YOU DEAD”ですか?」
「ユリ、起きなさい。これまでの戦いが全く活かされていないわ、初動からやり直しなさい。」
「でないとお花を貰うわよ!」「でないとフキノトウを頂きます。」
「コレだからエージェント夫婦はあぁ!!」
ちなみにこれは、去年も、一昨年も、一昨昨年も大人達が見た光景である。
おじさんのツッコミを余所に両親は勝ち鬨をキメ、武器をはさみに変えた。
フキノトウは、別に工作ばさみでも切れない事は無いが、剪定ばさみの方が綺麗に切れる。
フキノトウはこのまま収穫されてしまうのだろうか?
「だめー!!」
「きゃ?!」
小さなユリちゃんはぬいぐるみ山から飛び出した。
その勢いでお母さんの肩で跳び込み前転し、お父さんにピコッと一撃食らわせた!
「あーれー。」
「お!マジで一本取ったな。」
「ふーん…次はどうするのかしら?」
大げさに地に伏したお父さんには構っていられない。次はお母さんだ。
例の銃はお母さんも持っているが、構えは徒手だ…どうやら、帝国式武芸〈N.I.M. martial arts〉で返り討ちにするつもりらしい。
「行くわよ!」
「ふに!」
先手はお母さんが取った。

小さな娘相手でも、お母さんは容赦ない。
子どもハンマーの一撃を軽くいなし足払い、

そこからの踵落としは風を切る音がする。
「誰かこの大人げない大人達をナントカして・・・」
母娘の死闘の横で、ムシキおじさんはいよいよ呆れて白旗――帝国定番“くじびきのハズレ”――を上げた。
「ちょっと?!なんで白旗上げてるのよ!」
その時確かに、お母さんはおじさんの方に意識が向いたのだ。
それを、小さなユリは見逃さなかった。
「えーい!!」
ピコン
「あら。」「おや。」「あ。」
一瞬がら空きになったお母さんのお腹に子どもハンマーをピコリ。
これにはぬいぐるみを片付けていたお父さんとおじさんもビックリだ。
「…しょうがないわね、フキノトウは諦めるわ。」
「やったー!!」
大人達は小さなユリの頭を撫でて去り、ミッション:フキノトウの防衛は無事達成された。
「おめでとうございます!初勝利ですね。」
「ふに!」
小さなユリがトモダチのチカラで満開になったフキノトウ畑を絵に収める頃、食堂には“今年の天ぷら定食にフキノトウはありません”と注意書きがあったという。
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サークルOBさんが運営する温室の傍でぼうぼうと生えていたフキの一塊を頂いたので庭に植えたら、毎年フキノトウが生えてきています。白い花が咲くのできっと雄でしょう。天ぷらは大好きです!大人になった私はもっと生やして、ふきのとう天ぷらも沢山食べたいです。(フキはまた別に書きます)
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CAST

・ヴァルトリピカのユリ

・梢の子フローラ

・コモドーレのムシキ

・スツェルニーのクライン

・サクリーナのサドレア