植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

25.タンポポ

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※写真お借りしました:

https://www.photo-ac.com/profile/484309

25.タンポポ
黒い太陽と白い満月の墜ちる世界が、黄色に染まる夢を見た事がある。

その日の…空がいつもよりも白くて明るかった日の…
男は、区画内の店をふらりと眺めていた。
(今日も空は綺麗だな)
(冷蔵庫にアルビオンを仕舞って…おいたな。
 うむ、わたしってば天才なのだ!)
(青い空は本の中でしか見ないが、この世界の空がもし青かったら…)
(今日はアルトーと何をしよう。)
総菜、食器、絨毯、変わり映えのしない陳列品達〈Affichage〉を遠目に
見ながら頭を過ぎる無意識達を切って、今日すべき事をまとめる。
アルトーは、何が好きなのだろう。)

アルトーは無口な女だった。
喋られた所で理解不能が殆どだが、この区画…処か“異世界からの来訪者”
だった。おそらくは。全身から放つ冷たい霧は、今の所わたし以外が触るとカチコチに凍って砕けるし、体が微少な金属(たぶん)片で出来ているのでバラしたり、その一部を武器にしたり、髪などに刃物の様な斬れ味を持たせたりする。そして、同じ物が大嫌い、なのだ。

(だがわたしは珈琲〈Cafe〉党なのだ。)
男は、初手のアイスコーヒーを譲れない。
困った。
それで外をふらついていたが、ピンと来る物は見当たらない。
そのまま路地裏に入り込んでしまった。
アルトー、寂しい、寂しいのだ。)
すれ違えるギリギリの隙間しかない道の両脇は、入口から十歩ほど歩くと空が見えた。
建物が大きく崩れている。
いつからだろう。とても、静かだ。
(今は良いのだそれよりも…
 ああ、アルトーに会いたい、会いたいのだ!!)
悩める男の近くに誰かが複数居る。幕を落とす理由はそれだけでいい。
人の恋路を邪魔する者は、そうと相場が決まっている。
「我が剣(つるぎ)に酔いしれよ!!」


また静かになった。
もう誰も爆発物など投げてこない事を確認する意味で男は暫く立ち尽くしていたが、ふと地面を見遣ると、植物があった。
(この砂塵の世に、花が。)
工作バサミで切った様な葉は円形に並び、ぺたりと地面にへばりついている。
その中央には、まだ開かぬ蕾が。
(…わたしはこれを、何処かで見た様な気がするのだ…)
確かコレはロゼットとかいう防御形態で、そのうち、中央から茎が伸びて花が咲くのだ。
男はこれまで読んできた本の記憶を漁りに漁った。もしかしたら、愛しい人に贈り物が出来るかもしれないから。
タンポポ?)
男の記憶の中で咲いた花が、視界の中の植物と一致した。
(今度、花が咲いたら此処にテーブルを置いて、
 アルトーと飲みに来るのだ。そうしよう、それが良いのだ!)
想像の中で、いつものテーブルセットと、彼女が居る。
今はそれだけで満足してしまった彼は、満面の笑みを零しながら先を進む。
(アルトシエルよ、いま会いに行くのだ!)
蕾のまま控える蒲公英達を、後にして。
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そろそろ咲いてきましたね!雑草として見れば、抜くのは大変、風に乗って舞う綿毛で沢山増える極悪人。ですが、ハーブとして見れば珈琲やサラダ、民間療法の礎となります。
貴方はタンポポに何を望みますか?
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アルビオン〈ALBION〉:
Noritakeに存在するシリーズの一。まだネット上で見かけるタイプの廃番品。器の表面で、空色のリボンと淡紫色の花がロンドを踊っている。金縁なのでレンジにかけてはいけない。
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CAST
・ルベリエ
・残念ながら今回徒のモブ役だったTMF陸軍アットホームの皆様

「はなふだーはなふだー」「今回ヤラレ役だなんて、聞いてないしー!」「これはひどいや…」「んもう、おじさん怒っちゃうよ!」「見た目ヨシでも性格=外道多すぎじゃない!?」「お前が言うな。」「ひどい!!」