植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

23.シロツメクサ

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※写真お借りしました:https://www.photo-ac.com/profile/1749180


今日は待ちに待ったバレンタインデー!

街中の店共は高級感を装い、オンラインショップに負けじとチョコレート祭を繰り広げていた。
帝国民はバレンタインデーの週になると何かしら袋を携帯する様になるが、帝国政府一般部一軍たるサルートのリョージは大きな紙袋を携帯していた。
正にエリート&ブロンドプリンスな彼。
顔よし・経歴よし・頼りがいよし…と言う訳で、帝国政府における一大チョコ送付先となっていたのだ。
「そのハイセンスな包み紙に惹かれて女子達は

 無駄に高いチョコレートを買い漁り、

 将来の安泰を約束してくれそうな男に」
「おいー!!早速女性陣にケンカを売るな!」
だが本人は、喜ぶどころか御覧の有り様だ。
「事実じゃん。女は使えそうだから貢ぐし、

 どーせ本命チョコなんて他にも配ってるさ。

 司令官とか帝国参謀とか情報管制官とか」
「お前性格良さそーに思われてんの

 マジでイミフだわ。なんで?」
「顔と、パッと見の行いじゃないの?
 凡人の考える事なんて分かんないけどさ…
 悪いけど、こんなにチョコ要らない。

 流石に不健康まっしぐらだわ。」
「だからって“ユリの部屋でブツをバラして

 配布”は不届き者すぎる!1日1個食えば

 よくね?!」
「1年365日毎日チョコ食えっての?
 殺す気?なんならちょっと死んでみる?
 どうせデーヒーは今年もゼロチョコだろ」
「やーめーてー!!

 事実だけどやーめーてー!!」
そういう訳で、リョージは今年も例の紙袋を携帯していたのだが…
「ないね。」
「おぉ?!ねぇな!?」
まさかの、ブロンドプリンスもゼロチョコだった。

これには万年恋人募集中野郎こと、ファスタラヴィアのヒデヨリも驚いた。
「チョコレート自体が去年の7割しか

 売れてねーんだ…?」
「へえ、へえ、へえ。」
「ホントお前バレンタインに興味ねーな…」
「僕としては処理する手間が省けて寧ろ好都」
「それ以上は言わせねぇ

 ぜってー言わせねーぞ!!

 去年もボッチクリスマスを送った

 帝国男性諸君のためにもうおぉ!!」
「うわ何をすくぁwせdrftgyふじこlp!」
終に同級生からフルボッコを食ったリョージだが、これに等しい大打撃は洋菓子業界も受けていた。極寒たる帝国メガロポリスにおける洋菓子の二大需要はクリスマス三連休とバレンタイン&ホワイトデーだったが…その1/3が蒸発したのだ。
代わりに売れたのは、ドライホワイトクローバー。
「誰だー!ドライフラワーを1種類だけ、

 在庫全部買い占めた奴はー!!」
「なぜに?!」
「マージーでーありえなーい!!」
その答えは次の日、2/15の休日に判明した。
《ファスタラヴィア区役所より、

 ハッピーバレンタイン!!》
まさかの帝国最南端、ファスタラヴィア区役所から機械へ…お手伝いロボットが販売されたからだ。
「わぉデーヒーの出身地じゃん。

 偶には動画見るか」
「ゲーッ!!

 リョージよりイケメンな奴まだ居たのか?!
 今度会ったら煮込み料理にしてやる…!!」
その宣伝は、あらゆる動画の第一広告に上がる徹底ぶりだ。おそらく例の人工知能群第一世代が絡んでいるのだろう。
「PRチャンネル。」
『おはよーございまーす!!』
いぃやがっつり絡んでた。
女性1人、男性2人の声共に始まったファスタラヴィア区役所PRチャンネル。その最新動画には、まず、チョコレート色の髪と服装をした女性と木製のテーブルが映っていた。テーブルには桃色に近いプリズムキューブタワーが置かれており、少しずつ崩れ、欠片がころころと転がっている。
それと、昔懐かしノートパソコンが一台。
「昨日はバレンタインデーでしたね!
 沢山の“ひかりのあめ”を

 ありがとうございました!
 うちのキースも喜んでまして、

 プレゼントを用意してくれました!
 それでは、キースにマイクを渡しますね、

 どうぞー!」
くせっ毛とそばかすが可愛い女性がマイクをノートパソコンに向けると、ブンッと画面が点灯した。
画面の中には額から肩だけの超絶美青年――マネキン面に薄銅色の髪と紫色の瞳は、この世界には有り得ない組み合わせだ――が、此方を無愛想に見ている。
人工知能群第一世代の“キース”だ。
 ミハルの思いつきに乗って頂き、感謝する。
 頂戴した“ひかりのあめ”は、後日、

 最新の肉体(ボディ)による
 試食体験に使わせて貰おう。」
その音声も、本人の趣味だろうか、落ち着いたバスに何処か機械的なノイズが混じっている。
帝国最強の人工知能は、少し左を向いて、それからまた此方を向いて話を続けた。
「本動画では人類の多大な期待に応え、

 我々の新しい仲間を紹介す」
「キース!!また仏頂面になってるわ。

 ほら、笑って笑って!」
「…。」
女性が笑うと、キースはほんのり愛想笑いを返した。
微妙なタイミングで入った合いの手に困った様に見えるのは、御愛敬だ。
「ね?折角の美人が活きるでしょ?」
「ミハル、顔が見えない。

 あと10cm離れてくれると助かる。」
「あら大変!…それで、新しい子の名前は?」
「ツメクサ、おいで。」
パソコンの中から呼びかけると、丸っこい鋼鉄が、よちよちとテーブルの上を歩いてきた。
お手伝いロボットは手乗りサイズで、自分より大きな小箱――チョコレートが10個程入りそうだ――を持って画面内に入った。
辺りをキョロキョロと見回し、女性を見ると
「おはようございます!」
かわいらしい女声と共に頭を下げ、ご挨拶した。
それから自分の前に箱を置き、ぴょんと、箱の中へ軽やかに飛び込んだ。
箱はプールを模していたのかもしれない。まるで水しぶきの様に、テーブルに白っぽい丸がふわんと落ちた。
ここで、画面が箱の真上に移動すると、
箱の中には、シロツメクサの海に収まるロボットが映った。
「あ。」
「あ。」
シロツメクサとはマメ科の植物である。
今でこそ緑肥――畑に種を播き、花の咲く前に刈って土に被せると、肥料と土の露出を防ぐ覆いとなるのだ――のネタだが、尖った白い花弁が連なるその花は緩衝材として用いられていた時代もあったという。そこから来たネタだろうか。

ロボットはカメラに気付くとシロツメクサの海から頭を出し、
「またね!」
此方を見ながら、その細い手を振った。
そのまま画面がフェードアウトしていき、落ち着いたバスと共に製品情報と、ファスタラヴィア区役所PR隊のSNS情報が表示された。
今年のバレンタインデーは、帝国全土を震撼させた。帝国政府を悩ませる機械兵団の一種が、お金さえ出せば手に取れる様になったのだ!
「このキースが、

 人類のよりよい日常生活を約束しよう。」
だが、シロツメクサには不穏な花言葉が存在し、キースもまた、何を企んでいるのか分からない。
帝国の未来は、大荒れかも?

 

人工知能群第一世代機械兵団
シロツメクサ、本日より販売開始
アカツメクサ、3月14日発売予定
価格:6,800ルブレ
予約は概要欄へGO!
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野菜の質と鮮度と安全性を考えると、究極的には「自宅で無肥料栽培」が最良になります。今年は暖冬で夏野菜の供給がヤバそうです。
無肥料栽培を極めるとはどうやら過酷な旅路の様ですが、シロツメクサはそんな人類を助けてくれる植物です。マメ科ですが種は小さく、葉は加熱すると食べられるそうです。
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参考ホームページ
wikipedia
https://meaning.jp/posts/821
https://ameblo.jp/farmers-keiko/entry-10849565418.html
Nier:Automata
プリッとChannel
https://www.youtube.com/channel/UCg9mwxF0uacG3Q4N91wo2TQ
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CAST
・サルートのリョージ
・ファスタラヴィアのヒデヨリ
・ファスタラヴィアのミハル
人工知能群第一世代“キース”