植物博士の文章錬成所

小説で植物の情報を伝えていく!(それ以外の記事が立つこともあります)

21.カリン

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※写真お借りしました

https://www.photo-ac.com/profile/228981

寒さが身に滲む紅葉の頃、都市近郊の庭で異様に大きな実が目立ってくる。
柑橘と同じ黄色だが手触りはさらさらで、そして何よりも硬い。頭上から落ちてきた日には死者が出るかもしれない…
アナスタシアのマナは、つい1時間前に落ちてきた大ダメージ!の元凶を持ってみて思った。植物の事、自分は全く疎いが、煙の貴人なら知っているだろうと予想して。
「あな見事なカリンだスなぁ。」
煙の貴人――様々な事情によりマナはそう呼ぶ事にしている――はサングラス越しでも分かる笑みを零しながら言った。
「…お嬢さんの素振りには丁度良いだス。」
「マジですか。」
カリンは濃桃色の花から実を生じる。その大きさは女の掌よりも大きく、硬さは石と同等だ。その頑強さは果肉に多数占める石細胞によるので、石の上にぽてんと落ちても表皮が少し傷つくだけ。包丁を一太刀通すのも一苦労。
「細切れにしましたけど、どうしますか?」
「鍋に水と一緒に入れるだス。

 …佳い物を見せて差し上げよう。」
なんとか細かくしたカリンを種ごと鍋に入れ、これが浸かるまで水を入れて煮詰める。

水がとろりとしてきたら晒で濾して。
サラシまだ残ってて良かった…」
「此方の晒は少々密だスな…

    多少は通ってくれないと、困るのだが。」
液体を砂糖と共に鍋へ戻し、ひたすら煮詰める。すると、黄色に近かった液体が赤色に変わった。
「わ…」
火が通るにつれて粘性が増し、照りが出てくる。試しに掬ってみれば水の中から宝石を掘り当てたよう。正にジェ(・)ムだ。
「はいどうぞ。」
「い、いただきます・・・」
一体どんな味なのだろう?
綺麗な食べ物に心躍らせ、マナはカリンジャムをぱくりと一口。
不思議な甘味にサイダーは合うだろうか、この前サイダーをあげた友人に思いを馳せた。
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酒やはちみつに漬けてシロップにするのがカリンの主な利用法ですが、TVでコレを見た時は感動しました。きれいですね!
カリンはバラ科ですが丈夫な植物です。喉の守護神として、庭にどうぞ。
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参考ホームページ
・やまと尼寺献立帳「かりんジャム」
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CAST
・アナスタシアのマナ
・「貴人の名を呼びつけるなど、無礼な。」「え、えぇー…」